放牧酪農の基本と実践ノウハウ|草地管理からデータ活用まで

放牧酪農は、牛に自由に草を食べさせるだけの単純な飼養方法ではありません。

持続的に収益を上げるためには、草地の質・土壌環境・採食量の把握といった抑えておくべきポイントの理解が不可欠です。
本記事では、放牧酪農を始める人や改善したい人のために、現場で実践されているノウハウの一部をまとめました。


1.草地管理の基本

1-1.栄養価の高い草の種類

放牧の成功は、まず草の選定から始まります。地域や環境によって選択できる草種は限られる場合がありますが、代表的な放牧草としては次のような種類があります。


クローバー

栄養価が高く、牛の嗜好性も良い草種。根粒菌を宿し、空気中の窒素を固定するため肥料コストを削減できます。

ペレニアルライグラス

消化性と再生力に優れ、放牧に向く草種として広く知られています。

オーチャードグラス

繊維質が多く、草地の耐久性を高めることができます。

ポイントは、単一の草種になるのではなく、いろんな草種類をバランスよく組み合わせることで、牛にとって食べやすく栄養価が高い草地を維持できます。


2.土壌づくりと水はけの改善

健康な草を育てるには、土壌の整備が欠かせません。

実際の現場では、スコップで土を掘って根の張り方や状態を確認します。


2-1.”ルートマット”を確認する

ルートマットとは、植物の根の層のことを指します。ルートマットが厚い土は保水性と通気性のバランスが良く、根が深く張ることができます。


2-2.団粒構造を確認する

土壌粒子が小さな団子状の塊になり、それらがバランスよく混ざり合っている状態を指します。
団粒構造のある土はミミズや微生物の活動が活発で、栄養循環がスムーズになります。


2-3.雑草の役割を理解する

ギシギシのような根の太い雑草は必ずしも悪ではなく、土に水や空気の通り道を作る役割があります。
「見た目が良い草地」も大切ですが、土の中の状態を把握することで、より長期的な牧場経営の鍵です。

3.採食量をデータで管理するライジングプレートメーター

放牧では、牛がどれくらい草を食べたかを定量的に把握することが重要です。

ここで活用されるのが ライジングプレートメーター(RPM) という測定器具です。
草の上にプレートを何度も下ろし、草の高さからおおよその乾物重量を算出できます。
これにより、放牧前後の草量を比較し、1頭あたりの採食量を把握できます。
数値に基づき「明日も同じ区画に放すか」「新しい区画に移すか」といった判断が可能です。
たとえば、半日で1頭あたり10kg以上の生草を採食していることが分かれば、配合飼料を減らす判断材料にもなります。


4.コストと栄養価のバランス

高品質な放牧草は、配合飼料と同等の栄養価を持ちながら、コストは大幅に低いとされています。
十分な草量を確保できる環境であれば、飼料コストを大きく削減できる可能性があります。
ただし、インフラ整備(柵・水場・牧道など)や草地更新には初期投資が必要です。放牧と購入飼料のバランスを試算し、経営面からも最適化することが大切です。


5.マインドセットが成功を左右する

放牧酪農を続けるうえでは、単なる技術だけではなく考え方の柔軟さも大切です。

常に、牛を「草を利益に変える社員」ととらえ、草地管理=経営改善という意識を持つ。
このマインドセットがあれば、変化する環境や市場に合わせて牧場経営を進化させることができます。


まとめ

放牧酪農は「牛を草地に放すだけ」ではなく、科学的なデータ管理・土壌改善・コスト計算・経営的視点が組み合わさって初めて成果を出せます。 今回ご紹介したポイントを取り入れることで、放牧はコスト削減だけでなく、牛と牧場の持続可能な未来を支える手段となるでしょう。
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