【開催レポート】NZ 北海道 酪農協力プロジェクト 第2回 放牧酪農オンライン交流会

2022年9月20日(火)、ニュージーランド北海道酪農協力プロジェクトによる放牧酪農オンライン交流会を実施いたしました。
酪農畜産家の方や新規就農希望の方、農業関係者など全国から総勢22名の方にご参加いただきました。
未来の農業者に向けて、環境の異なるニュージーランドの技術の中で、日本でも実践できることを共有する交流会となりました。

本記事の中では、交流会でのアドバイスや、Q&Aを抜粋してをご紹介します。 放牧で困っていることがある方、これから就農・放牧したい方にご参考いただけると幸いです。




目次

交流会のプログラム

【開催レポート】NZ 北海道 酪農協力プロジェクト 第2回 放牧酪農オンライン交流会
  • ・4つのグループに分かれてアイスブレイク
  • ・Q&Aセッション
  • ・ニュージーランドのコンサルタント、キースさんよりコメント
  • ・ファームエイジ高田より交流会のキーポイントと総括



Q&A

【開催レポート】NZ 北海道 酪農協力プロジェクト 第2回 放牧酪農オンライン交流会

(1) 配合を増やして個体乳量が上げているそうですが、
具体的にはどれくらい配合を増やしましたか?(北海道:新規就農希望者)

(回答)高原さん
・配合給与量を昨年平均2.3~2.4㎏からことしは4.3㎏まで上げた
・16号のエサを1.5㎏ほど増加


(2) 耕作放棄地になっているところに放牧したいが、
どれくらいの頭数をどの面積に放せますか?(長崎県:肉牛農家)

(回答)吉川さん
・1頭当たりの面積というよりは、輪換日数で考えている
・今ある放牧地を20日で1周牛が移動できるように牧区を区切っている
・搾乳をしたら新しい牧区に放し、1日に2牧区を移動していて、
 20日で回す+1日2牧区を移動するので、放牧地を40牧区に分けて使用し、
 余った草は刈り取りをしています。 ・肉牛だとまた変わるので、はっきりとわからないが3日間くらい同じ牧区に置いてもよいかもしれない
・草があまりそうなら牧区をさらに区切って放牧する



(3) 放せるところで4haほどになるので多くは放せないが、
エサを放牧地に撒くなどはいかがでしょうか?(長崎県:肉牛農家)

(回答)吉川さん
輪換放牧するならha当たり3頭ほどが理想で、4haなら12頭くらい放牧できるかもしれません。


(4) 飼料高騰の対応として、デントコーンを増やしてエネルギーを補填している方もいらっしゃいますが、
他に対策方法はありますか?
 個体販売価格下落で、経営にどれくらい影響を受けていますか?(北海道:新規就農希望者)

(回答)高原さん
・配合飼料は高いが、放牧草を最大限に利用できる環境を作ることが重要
・デントコーンの利用は、購入金額をよくみて使ってみるのはいい
・草の利用の部分で繊維質が多いと、配合は逆に使わなくてはいけなくなるが、極端に配合を減らすのは良くない
・急に配合の給与量を減らす前に、放牧草の利用方法を変えていく
・配合の量を減らすことはまだできる時期ですが、草地をみてみないとはっきりとした判断はできない
・子牛の個体販売価格は300万円計画だったが、100万円を超えるかどうかの予測になってしまったので、
乳牛を選別したり、F1をうまく利用するなどうまく調整していく予定



(回答)吉川さん
・4㎏以上配合を与えると利益は下がる
・配合の多いエサを食べた牛の糞の周りの草を牛は食べたがらない



(5) 放牧酪農をしていますが、牛が好んで食べる草地と食べない草地が極端にあり、
その差はなんでしょうか?その対策などを教えてください。
草地での施肥管理や、牛舎での管理など教えていただきたい
(北海道:新規就農者)

(回答)吉川さん
・牛が集まって糞が多い場所や、配合飼料が多い糞の周りの草は牛が好まない
・子牛は配合飼料を与えているので、子牛放牧した草地の草は牛が食べたがらない
・食べないところは掃除刈りがいいと思う
・糞尿臭さを抜くことで対策できると思う



(回答)高原さん
・食べている草地と食べていない草地をポイントで分けて土壌分析をしてみるといい。
 地下水が溜まっていることなども関係しているかもしれません。


(6) 牛舎の中でのエサの管理を教えてください。

(回答)高原さん
・配合以外は、新エネルギーミックス(ホクレン)をメインに上げている
・乳量を上げたい場合(新エネルギーミックスを食べない牛画いる場合も)ニューコネクト16号を0.5~1㎏かけて給与
・リンカルの0号を分娩後と乾乳前期にだけ給与
・1日30gのバイオバランスを給与
・粗飼料は4月の放牧開始時と10月下旬ごろ終牧のころに与えます。
・干ばつや天候不良の時はサイレージフィーダーを使用して、放牧地へ1番草や3番草を撒いている
・土壌分析をしてみると、食べない草地と食べる草地の差がわかると対策がわかる
・地下水の有無でも牛の好みが変わる
・堆肥散布は秋だけ 堆肥舎で堆肥は3回ほど、切り返し(生の堆肥はなし)
・ほぼ完熟した堆肥をマニュアスプレッダーで薄く散布している



(回答)吉川さん
・堆肥は1番草後は撒かず、3番草の後は、冬にできた堆肥を薄く撒く
・分解が進む時期温かい時期に堆肥を撒くのが理想
・牛が集まって糞が多いところは、牛は食べたがらない
・子牛(濃厚飼料食べている)の放牧した後の草地は牛が食べたがりません



(7) 草を伸ばすために、
どのような堆肥をどのようなタイミングで撒いていますか?

(回答)高原さん
・堆肥散布は、秋のみ
・堆肥も冬の舎飼い期に溜まったものを3回~4回ほど切り返している
・乳酸菌を使用して腐熟させていて、生の堆肥は撒きません
・ほぼ完熟した堆肥をマニュアスプレッダーで薄く草地へ撒いている



(回答)吉川さん
・生の堆肥を春先から薄く撒いている
・草が伸びないときは、撒いている
・1番草後は、すぐ伸びるので撒いていない
・分解が進む温かい時期が一番堆肥散布に向いている



放牧のメリットはよく聞くが、
逆にデメリットはありますか?

(回答)吉川さん
・放牧は、乾燥地帯の重い牛を歩かせて土を耕す農法なので、日本などの雨が多い地域では泥濘化させてしまうところ


(回答)高原さん
・デメリットは見つからないが、牧道や電気柵に掛かる初期費用が高額
・業者施工や自主施工でまた金額が変化する
・牧道設置に使う材料が、地域によって使える材料が変わったりする



(8) 草地更新は、なるべく労力を押さえたいのですが、どれくらいの頻度で行うと良いでしょうか?

(回答)吉川さん
・草地更新しなくてはいけないような放牧はすこし良くないかもしれない
 放牧していると草地は良くなっていくはずです。



(回答)高原さん
・耕作放棄地(道の事業を使って整地)以外は、もともとあった草地は簡易追播で更新した。
 1牧区を2年くらい様子をみて、次の牧区を更新するなど草地を見て更新している



(9) トラクターが入れないような場所や傾斜地へ堆肥はどれくらい撒いていますか?(北海道:酪農家)

(回答)高原さん
・傾斜でも、ブロードキャスターで入れるうなところは鶏糞を使ってみる
・無理に傾斜地には入っていない
・放牧地でも牛が行ってくれない場所は、利用しない



(回答)吉川さん
・同じく、ブロードキャスターで鶏糞散布
・牛は昼に採食して、夜に糞をするので夜牧区に栄養が移動していくので、
堆肥撒けないような牧区を夜牧区にしている



(10) 終牧までの期間を伸ばすことが儲かる秘訣なのですか?

(回答)吉川さん
・放牧で儲けるためには、終牧をどれだけ伸ばして放牧期間をいかに伸ばせるかが1番ポイント
・2番草刈り取り後に放牧できる兼用地にも放牧して、輪換放牧日数を伸ばすなど



(回答)高原さん
・頭数に対して放牧地は余分にもっていて余剰部分を採草地として利用
・2番、3番草を刈り取り後に放牧したり、4番草刈りが必要なところも、刈ってからまた放牧している
・10月いっぱいは普通に放牧ができて、11月は牧区面積を広くとって、
足りない分は春に取った1番草の良質なサイレージをサイレージフィーダーで撒いて、放牧日数を伸ばしている
・糞をして食べ残した草や伸びきった草は、面倒くさくてもディスクモアで掃除刈りしてから終牧している。
それをすると春からよく利用できる草地へ変わっていく



(11) 九州ではイタリアンライグラスを毎年播種してメインに使用しているが、できるだけ長く利用しようとしています。
道内では草種や気温など環境変化があると思いますが今後どのように取り組まれますか?

(回答)高原さん ・天塩町(道北)でも雪がない年があり、土壌凍結したことがある
 ペレニアルライグラスという土壌凍結に強い品種を1部の牧区に播種した
・干ばつではオーチャードグラスが衰退してしまい、ペレニアルライグラスが強がかったので雨の後はペレの植生がよくなった



(回答)吉川さん ・私の牧場では、ペレニアルライグラスは根っこが強いが干ばつに弱く、オーチャードグラスが干ばつに強かった
・イタリアンライグラスは1年生なので強いが、ハイブリッドライグラス(?)というニュージーランドの品種は、
九州のような温暖な気候にも向くはずだが、キースさんよりアドバイスが必要



参加者へメッセージ

・高原さん

【開催レポート】NZ 北海道 酪農協力プロジェクト 第2回 放牧酪農オンライン交流会 NZの放牧に倣って、小牧区化して放牧をして上手くいったが、新規の放牧酪農をしている方にも、
どれだけ牛が食べているかわからず怖くて配合も与えてしまう人がいる。
土地によって風土(地質や環境)が変わるので、小牧区化を試しにしてみて、
実際に草地を歩いて草地を足の裏で感じてみたり、牛が食べる姿や行動を近くでみて観察してみることが大事だとプロジェクトを通じて感じました。

毎日の積み重ねで、生活や住民(風土)に働きかけることができます。
小牧区の測定や畑に足を運ぶことをしていくことをおすすめします。



・吉川さん

【開催レポート】NZ 北海道 酪農協力プロジェクト 第2回 放牧酪農オンライン交流会 思い込みで管理するより、ライジングプレートを使用して草地を見てみるなど草地をしっかり歩いて数値化してみるといい経験ができるかなと思います。
キースさんと言う通り、放牧草を最大限に利用することが、一番利益が出る方法です。
NZの乳価が最大になっているが、世界で牛乳が足りていないので世界情勢でみると酪農の未来は明るいです。
足寄でも赤字の酪農家が放牧に転換し、配合や牛の頭数を削減して、経営を立て直していた人がいたので、
放牧であれば(飼料高騰等の外部要因)牛が元気であれば心配せずに経営して借金を返していけると思います。
不安だからと言って、配合を与えすぎると利益を減らしてしまいますので、注意して放牧の経営をすると良いと思います。



・キース(NZコンサルタント)

【開催レポート】NZ 北海道 酪農協力プロジェクト 第2回 放牧酪農オンライン交流会 大事なことは、いかに牧草の品質を高く維持できるかです。
高原さんのようにプレートメーターという草量測定器などを使用して、毎日草を測ってデータを蓄積していかないと、今後の管理やエサの量の決断ができません。
放牧を開始する方も放牧のメリットを最大限に利用することを考えられたらいいと思います。
理解を深めるためには、交流会で出会った人同士で話合ったり、吉川さんや高原さんの農場を視察したり、逆に吉川さんや高原さんが皆さんの牧場を見に行ったりすることで得られる気づきがあると思います。
今回の交流会に参加できた皆さんは、とても幸運です。吉川さんや高原さんといった人の成功体験を聞くことができました。NZ情報を共有してきましたが、NZのアドバイスがない場合も日本で今の知識を活かしていけると思います。
エサ、原料の高騰など負の要因はたくさんありますが、草を最大限に利用するというシステムを活用すれば、日本の酪農のいい未来を築くことができます。



総括 ファームエイジ株式会社 髙田

・自給飼料の活用(放牧草、サイレージ)
・所得向上と時間の効率化
・モチベーション向上と共有普及 が大切です。

さらに環境対策などの持続可能な取組みが重要視されています。
今後もコミュニケーションとNZ技術などの情報共有の場を提供していきたいです。
これからの日本の酪農にも未来があると思います。
【開催レポート】NZ 北海道 酪農協力プロジェクト 第2回 放牧酪農オンライン交流会
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